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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)7448号 判決

事実

原告は昭和二十八年四月六日より同年十二月七日までの間に合計金百七十八万八千円を株主相互金融の方法により貸金業を営む被告全日本相互株式会社に出捐した。これらの出捐は、原告が被告の株式を取得するため月賦若しくは一時払により払い込む出資の形式をとつているが、これに対しては優待金の名目で一定の割合の利息を附し、契約終了の日すなわち一定の据置期間の満了と同時に出捐した金銭の返還を受けることができる約定になつていたものであつて原告はこの点に着眼して日掛貯金ないし定期預金をするのと同じように考えていたものであるから、法律上は金銭の消費寄託をなしたというべきであり、原告はこの出捐によつて被告に対し出捐金の返還請求権を取得したものということができるのである。よつて原告は被告会社に対し右金員の返還とこれに対する完済まで年五分の割合により遅延損害金の支払を求めると述べた。

被告全日本相互株式会社(昭和二十八年当時は朝日商事株式会社と称していた。)はこれに対して、被告は原告主張のとおり株主相互金融方式により営業をして来たものであるが、その概要は、(1)被告は被告の株式の譲受を希望する者に対し無償で譲受の斡旋をする。(2)右譲受希望者が譲受代金の一時払をするときは被告の方で一時不足額を支払つた上株券の交付をする。(3)右株券を取得した者は被告の株主たる地位を取得して被告から随時小口の金融を受け得る特典を与えられる一方金融を受ける必要のない者は株式を他に譲渡すれば、被告より一定の割合の優待金を交付される。(4)株主が持株の譲渡を希望する場合には被告は無料でその斡旋の労をとり、譲渡代金を相手方から取り立てて譲渡人に交付する。以上のような仕組になつていたのであるが、本件における原告も右の方式に従つてその出捐した額に相当する被告の株式を譲り受け株主たる地位を取得したもであつて、その出捐が被告に対する金銭の消費寄託となるいわれはないから、右契約の成立を前提とする原告の請求は失当であると争つた。

理由

証拠によると被告会社の採用していた株主相互金融の方式は大要次のとおりであることが認められる。すなわち、被告はその株主となつた者に対し融資をすることをたてまえとして、被告の株主になろうとする者には株式譲受申込書を提出させ右申込を受けると直ちに株式の譲受を斡旋する譲受人に対しては代金の全額払込をまつて株券を交付し、株主となつた者には一定の割合の優待金を支払い、なお株主がその株式の譲渡を希望するときは、被告はいつでも無償で譲渡の斡旋をする。以上のとおり認められるのであつて、この認定事実から考えると原告は形式上は一応被告の株式を取得するため金百七十八万八千円の金員を払い込んだものと解するのが相当である。

しかしながら翻つて他の証拠を検討すれば、原告は被告との取引を開始した時から約定の出資金の払込を完了しながらいまだ一度も株主総会などの招集通知を受けたことなく、株券の交付を受けたこともないことが認められ、この点では被告は出捐者を株主として遇することは殆んど顧みなかつたのではないかと推察され、しかも原告の被告会社に対する出捐は当初は約定の期間満了と同時に原告の申出により自由に全額の返還を受けることができたことが認められる。この点について被告は、株主相互金融に加入した株主が株式の譲渡を希望する場合は、被告において株式の譲渡を斡旋し、その代金を相手方から取り立てて譲渡人に交付するたてまえであつたと主張するが、株主がその出捐の回収をはかる場合被告主張の方式が現実に行われたことを認めるに足る資料はなく却つて、右約款は単なる形式で被告自身これを無視していた事実が窺われる。

なお、被告会社の発行する払込金領収証なるものには契約の継続という用語が使用されているが、原告の証言によればその用語の意義は、出捐者が約定の期間満了により被告から払込金の返還を受けることができるようになつた後、その返還を請求することなく継続して該金員を預け入れることであるとされ、右のとおりであるとすれば右出捐の法的性格を被告の株式取得代金の支払とみることは極めて疑わしいといわざるを得ず、さらに払込領収証記載の約款によれば、「契約の中途解約の場合の株式譲渡金は契約終了予定日以後でなければ交付できない」旨の記載があるが、若し被告に対する出捐の性格を被告主張のように解するものとすれば、右約款の意義は益々不可解なものとなる。

かようにみて来ると、被告会社がその経営にかかる株主相互金融を遂行するために、その加入者に被告から金融を得または優待金の支払を受けるため株式譲受の申込をさせるということは、被告会社において殊更に形式を整えたものに過ぎず、その実体は、被告の事業資金を調達するための方便に出でたものと解すべきである。

してみると、原告からは被告に対してなされた本件出捐の実体は、原告に対する金銭の消費寄託にあつたものと解すのが相当であるから、右金員並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当であるとしてこれを容認した。

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